ただ好きだから
夏月は、ゆっくり登坂にもたれ掛かる。


「臣くん、いい匂いがするね」


「ん?酒臭く無い?」


「ちょっと、お酒の匂いもするけど…、香水つけてるの?」


「まぁね。あ、そうだ、ちょっと待ってて」


そう言って、部屋を出て行った。


そして、小さな箱を持って戻ってきた。


「ね、これ、あげる」


「これ、何?」


「俺の使ってる香水。つけなくてもいいんだけど、まぁ、俺の代わり、みたいな」


キザなことをいう自分に少し照れる登坂。


「ふふっ、開けていい?」


「どうぞ」


箱から香水を取り出し、蓋をとると手首にシュッと一吹きして、鼻に近づける。


「わ、臣くんの匂い」


ニコニコな夏月に登坂は、


「家帰って、また、今日のこと夢なのかって、疑うだろ」


「うん…、多分ね」


予想通りの答え。


「そしたら、これをシュってする」


「そうか、そうだね」


「まぁ、ずっとつけてたら、いつも俺と一緒な気分になるかもだけど」


「うん、それもありだね。ふふふっ」


「そう、いつでも会えるわけじゃないからさ」


「そうだね。じゃあ、私も臣くんに何か…んー」


とは言っても、これといった持ち合わせもない。


「なっちゃん、写真、撮ろっか?」


登坂がそう言って、スマホを出す。


「うんっ、撮る撮る。私のスマホ、どこだっけ」


「ねぇ、私の髪、ボサボサじゃない?」


「ん?」


登坂は、夏月の正面に立ちさっさと手ぐしで手直しした。


「さすが元美容師さんだね」


「ん、まぁね。じゃ撮るよ」


登坂は夏月の肩を抱き寄せて、スマホを構える。


「もうちょっと、顔近づけて」


「こう?」


画面を確認しながら、二人でポーズを決める。


"カシャ"


「いい感じ。もう一枚」


"カシャ"


「次は…ほっぺにチュッ」


"カシャ"


「あ…」


不意打ちに合う。


「撮っちゃった」


登坂がニヤッとする。


「ちょっとぉ、恥ずかしいよ」


「じゃ、消す?」


「…消さなくて…いいけど」


「ふふっ、笑える。あ、お口にチューの方が良かった?」


「あぁ、今日はもう…大丈夫…」


夏月が恥ずかしがって遠慮するが、


「俺は、まだ足りないっ」


そう言って、唇にキスをした。


二度の不意打ちに驚く夏月。


「また、ドキドキしちゃった?」


ニヤける、登坂。


「…うん…、ねぇ、臣くんドキドキさせすぎ」


夏月が口を尖らせる。


「ふふっ、可愛いな」


そう言って、ハグする登坂。


登坂の腕の中は居心地がよかった。


疲れ切っている夏月は、目がトロンとしてしまう。


「ねぇ、そろそろ帰ろうかな」


「もう、帰るの?」


「うん。だって臣くんのここ、居心地よすぎて、朝まで眠っちゃいそうだから、意識があるうちに帰らないと」


「そっかぁ、じゃあホテルまで送ってく
よ」


残念そうにそういいながら、頬擦りする。


「えぇ、いいよ。タクシーだし、一人で大丈夫だよ」


「ダメダメ。心配だから、一緒にいく」


「ね、最初から、過保護すぎない?」


「過保護、大歓迎。ちょっとでも長く一緒に居たいし」


「ん〜、そういうことなら、甘えちゃおうかな」


「オッケー」
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