ただ好きだから
第2話
仕事帰りにバイクの専門店に寄る登坂。


先日のレンタルバイクの故障以来、購入を検討しているのだった。


夏月の会いに行くなら、バイクで行きたいと思っていた。


とはいえ、撮影で使ったバイクは、1000万円超え…。


三代目で稼いでいると言っても、そこまでの金額をバイクにつぎ込むまでではない。


今日は、ハンドルを握ったり、シートに触る程度。


これだというものには、出会ってなかった。


ツアーが始まるとゆっくり休みもとれないし、今買うのはベストではないとも思っていた。


(ま、今日も見るだけのつもりだったし、帰るか。夏月さんに会えるのはいつのことかなぁ)


「さぁて、夕飯何にしようかなぁ」


と店を出て、どこへ行こうかと考えながら歩いていた。


向こうの方で、数人のグループが店の前で丁度解散するところのようだった。


服装からして、結婚式の二次会のような雰囲気だった。


そして、そのグループの中から、一人の女性がこちらの方へ歩いてくる。


薄い水色に花柄の膝丈ドレスにハイヒール。

(んー、イケてるな)


ついつい、見てしまう。


「あっ」


それは、見覚えがある顔だった。


「夏月さんっ」


思わず声を掛けてしまった。


髪をアップにして、フルメイクなので先日会った時とは、全く違う雰囲気ではあったが、間違いなく夏月だ。


「え?」
 

夏月は立ち止まり、声の主を探す。


登坂は、夏月に近寄りにっこり笑った。


「あ、広臣くん」


夏月は、酔っているせいか少しうっとりとしていた。


(この前と全然違うじゃん)


思わず、見惚れてしまう。


しかし、まさか、こんな街の中で出会うとは思ってなかったので二人ともが、この偶然に驚いた。 


「すごい、もう一回会えるなんて、思ってもみなかった」


「まさかこんなとこで会えるとは!すごい偶然だね」


登坂は、この再会に感激した。


「ね、夏月さん、時間ある?」


「時間?うん、今日は、この後ホテルに帰って寝るだけだから、大丈夫だよ」


そう言って、夏月がにっこり笑う。


「じゃあさ、この前のお礼に一杯おごらせてくれる?ゆっくり話もしたいし」 


「え、一杯?うーん、今日は、ずっと飲みっぱなしだから…飲めるかな〜」


さすがの登坂の誘いでも、辛そうだった。


「あぁ、そっか、じゃあ…、お茶でも」


すると、夏月がニヤっと笑った。


「なんだか、ナンパされてるみたい(笑)



その言葉に登坂も笑った。


「そうそう、他の男がナンパする前に俺がナンパした。あぁ、ナンパしても大丈夫?彼氏とか」


「ご心配なく、彼氏いない歴、んー何年かなぁ、ふふふっ、臣君にナンパされちゃった。ね、皆んな臣君って言うんでしょ」


「そうだよ」


「フフ、Wikipediaで調べちゃった」


「俺も夏月さんの店のホームページ見たよ」


「え、見たの?…恥ずかしいよ」


「とりあえず、移動しようか?」


「うん」
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