寡黙なダーリンの秘めた愛情

一件落着?

「その名札、返してもらおうか。大方、受付の矢野幸美にでも協力してもらってせしめたんだろうが」

八雲メディカルでは、出社したらまず正面受付を通り、受付嬢の前でタイムカードを押して名札を受けとる。

時間外は受付嬢から警備員に代わるが、出社退社を管理するシステム自体は昼夜で変わらない。

「ああ・・・返すよ。言っとくが、美咲を助けるためだからね。俺は謝らないよ」

不正を犯したにも関わらず、その正当性を主張する義一は悪びれないままである。

「ふーん、そうか。・・・そうそう、京都で、赤池由利亜とホストのレンジって奴に会ったよ。赤池さんはお金と引き換えに、義一に情報を流してたって言ってたが、どんな情報だったのかな?」

さすがの義一も、この蓮の言葉に反応した。

「ハッ!お、お前の愛人の言うことなんか信用できるわけないだろう。自分達の不正を棚にあげて、嘘をでっち上げるなんて最低な野郎だな」

声がうわずる義一。

静まる室内に、ピンコーン、とスマホの着信音が響いた。

「ああ、グッドタイミングだな。俺の浮気写真ってやつ。鑑定に出してたんだけど、あれは俺じゃなくてレンジってホストだと断定できるって返事が来た」

ソワソワと立ち上がる義一だったが、それでも強気な姿勢は崩さず

「な、なんだ。あの女、そこまでやるなんてマジで病んでたんだな。浮気は否定されても、お前がしてきた横領や情報漏洩の証拠は消えない」

と続けた。

「俺さあ、ここ数ヵ月はわざと自分のパソコンのセキュリティレベルを下げてたんだよな。だからこそ不正アクセスの監視レベルは逆に上げて。・・・そのお陰で、何も考えずに突進してくる小魚が、釣れる釣れる」

微笑む蓮と青ざめる義一。

「いい人だと思い込んでいた゛先輩゛と゛身内゛を疑わなかった前回の間抜けな俺とは違う。撒いた餌に食い付いたのはお前らの方だ」

くっ、と息を呑んだ義一は部屋を出ていこうとする。

「ああ、そうだ。金輪際、美咲には関わらないで貰えるかな?今頃、お前の言い分を信じた真面目なだけが取り柄の政義おじさんは大変な目に合ってるはずた。そんな八雲分家に美咲を託すわけにはいかないからな」

蓮の最後の言葉に反論することもなく、義一は駆け出していった。


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