寡黙なダーリンの秘めた愛情
看護助手が遅食にして欲しいと頼んでいた朝食を運んで来たのは、廃棄時間寸前の9時50分だった。

遅い朝食を済ませると

「蓮くん、あのね」

と、ベッドの頭側を60度に上げていた美咲が、蓮に語りかけた。

「ん?」

美咲の手を両手で握って離さない蓮が、美咲を見つめる。

「べべは後5週間はお腹にいないと肺が出来上がらないらしいの。明日くらいにもう一度エコーと血液検査をして、異常がなかったら内服に切りかえて、それでも大丈夫ならおうちに帰ってもいいって先生が」

「ああ。その日を楽しみに俺も頑張るよ。毎日面会に来る」

優しい蓮の言葉に、美咲の心は癒されていく。

「私の不注意でべべの命を危険に晒してごめんね。蓮くんの大事な出張まで切り上げさせてしまったけど、本当は・・・不安だったから、顔を見ることができて本当に嬉しかったの」

「美咲・・・!」

゛なんて可愛いんだ!゛

蓮は、目の前の美咲を力一杯抱き締めたくて仕方なかったが、キスをするだけにとどめた。

「来月の母親学級に行けるかな・・・」

「行けるさ。俺が抱っこしてでも連れていってやる。心配するな」

争い事が解決し、いつもの蓮とのやり取りが戻ってきた。

入院、ベッド上安静と、状況は変わっても、蓮の愛情は変わらない。

その事実が、切迫早産という予定外の出来事で不安に駈られていた美咲の心をどれだけ安心させてくれたか、蓮は知らない。

美咲は温かな蓮の手のひらから伝わる温度を確かめながら、生きている喜びを実感していた。
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