寡黙なダーリンの秘めた愛情
「ま、松本さん。ご無沙汰しております」

思いもしない人物との突然の遭遇に、美咲の態度はぎこちなかった。

だが隙を見せてはいけない、と美咲は、精一杯笑顔を称えて歩花に向き合った。

「お知り合い?」

「ええ、八雲メディカルの会長のお孫さん。城之内美咲さんよ」

「あ、あなたが・・・!その節は娘がとんでもないことをして申し訳ありませんでした。今ごろになってお詫びするなんて失礼にもほどがあるかと存じております。でもどうか謝罪だけでもさせてください。本当に、本当に申し訳ありませんでした」

歩花の母と名乗った女性は、歩花が退職に至った経緯を副社長から聞いたのだろうか?

目には涙を浮かべており、見ているのが辛い。

「いえ、私が謝られることではありません。歩花さんもある意味被害者ですからどうか顔をあげてください」

頭を下げ続ける歩花の母に、美咲はそれ以上の謝罪を断った。

「ごめん、お母さん、何もしないから、城之内さんと二人にしてもらえる?」

顔を上げた母親に歩花が訴える。

「歩花、神様がくれたせっかくの機会よ。きちんと謝りなさい」

そういって歩花の母親は、お辞儀をしながら拝殿の方へ歩いていった。

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