寡黙なダーリンの秘めた愛情
前回投げられた暴言と冷たい態度を思い出し、美咲の体は強張る。

「あの時も、5年前も・・・本当にごめんなさい」

美咲の緊張をよそに、意外にも歩花は謝罪の言葉を口にした。

美咲が歩花を見ると、ホロホロと涙を流している。

「い、いえ、幸い、何事も、うまく、進んできましたので、全く問題ないです」

美咲のカタコト言葉に、歩花は泣き笑いを見せた。

「あなたのそういうところが、みんな大好きなのね」

と歩花は微笑んだ。

「義一さんと別れて、ホスト通いもやめて、会社をクビになっても、私は何一つ悪いと思っていなかったわ」

そういって拝殿を見つめる歩花を一体何が変えたのだろう、と美咲は不思議に思った。

「でもね、私も先月、妊娠していることがわかったの。今は5ヶ月」

歩花は愛しそうにお腹をさすった。

「おめでとうございます!今日は戌の日のお祝いなのですね!」

明るい美咲の声に、クスリと歩花が笑って

「私にひどいことをされたのにお人好しにもほどがあるわ」

と言った。

「はじめは動揺したわ。既に義一さんと別れているし、会社も辞めてしまった。だけど、実家の両親が言ってくれたの。産むなら全面的にサポートするから頑張りなさいって」

「義一さんには伝えたんですか?」

ううん、と歩花は首を振る。

「彼に利用されてたのは事実だし、今はまだ、彼のことまで考える余裕はないの」

「そうですか・・・」

歩花には、突然の妊娠で戸惑っている歩花の気持ちがよくわかる。

あの当時の美咲も、由利亜と蓮の関係を疑って、愛のない妊娠を受け入れがたかったから。

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