寡黙なダーリンの秘めた愛情
「おかえり」

城之内家の玄関扉を開けると、蓮と美咲のそれぞれの両親、美咲の祖父の慎太郎、蓮の妹の美鈴が待っていた。

「ただいま。遅くなりましたが無事に退院できました」

美咲の言葉に、早く生んでしまった後ろめたさを感じとり、

「何言ってんの。優しいいっくんは、蓮に気を遣って退院を1週間延ばしただけよ」

と、美鈴が笑えない冗談で場をなごませた。

「ねえ、抱っこしてもいい?」

恐る恐る手を出す美鈴にいつものキャリアウーマン風の余裕は感じられない。

「どうぞ。お願いします」

美咲は、美鈴に育己を託すと、蓮と共に曾祖父の待つリビングへと歩き出した。

「わあ、小さくて可愛い」

いまだに゛小さい゛という言葉を聞くと胸が痛むが、すべての人が悪意を持ってそう言っているわけではないとわかっている。

しかし、産後の急激なホルモン変化は、些細なことで妊婦を精神的に追い込んでいく。

先輩ママの三住ナースは

「そういう自分の精神状態や体のおかれている状況を知っていることは、闇に引き込まれないための自分を守る武器になるのよ。落ち込んでも、これはホルモンのせいって呪文を唱えるの。それでも乗りこえられないようなら、いつでも相談に来てね」

と話してくれた。

だから、美鈴の何気ない言葉に傷つく自分自身も、美咲は否定しないようにしたいと思う。

「゛小さくて゛は余計だ。もっと美咲の気持ちを考えろ」

「あ、ごめん、普通に赤ちゃんは小さいからって意味で口走ってた・・・」

「本当のことだから大丈夫だよ。蓮くん。気にしないで、美鈴ちゃん」

常に美咲目線の蓮は、時々こうして周囲を追い詰めるから厄介だ。

でも、その心遣いが嬉しい。

その時、美鈴に抱かれる育己が大きく欠伸をして場をなごませた。

本当に気が利く子だと思う。
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