寡黙なダーリンの秘めた愛情
彼は城之内蓮、32歳。
八雲メディカルコーポレーションの製品開発部の部長であり、美咲の直属の上司だ。
さらさらの黒髪に銀色のフレームレスの眼鏡。
メタリックグレーのスーツに紺色のネクタイ。
背は178cmと高いが、小学校時代から陸上で鍛えた体は締まっていて若々しい。
美咲の母である八雲智恵子と、蓮の母である城之内恵子は、従姉妹というだけでなく無二の親友であり、美咲も幼い頃から城之内家族とは親交が深い。
幼い頃から何度も顔は合わせていたはずだが、美咲が覚えている蓮との最初の思い出は、小学校の入学式を終えた日の夜のことだ。
美咲は6歳。
蓮は16歳で高校2年生だった。
その日は、美咲の小学校入学と蓮の妹である城之内美鈴の中学校入学を祝うために、八雲家と城之内家は、曾祖父の家を訪れていた。
さらに4月12日は美咲の誕生日なので、そのお祝いもかねての祝賀会だった。
曾祖父は本当に子煩悩で、子供だけではなく孫も曾孫も大層可愛がってくれた。
親族の誰かにお祝い事があると、その度毎に親族を集めては祝辞を述べる。
それが彼の生き甲斐であり、八雲メディカルコーポレーションをここまで大きくした曾祖父の人間性の現れだった。
「美咲、美鈴、入学そして誕生日おめでとう。ここまで何事もなく健やかに育ってくれて本当に嬉しいよ」
85歳になる曾祖父は、幼い頃に末の妹を流行り病で亡くしており、ことさら美咲と美鈴を可愛がっていた。
特に美咲は曾祖父の妹にソックリだとかで、なめ回す程の勢いで抱きつかれて困ったものだ。
「ひいおじいさん。美鈴も美咲も困ってますよ。そのぐらいにして下さい」
苦しくて困っていると、後ろからグイッと引き離された。
「お兄ちゃん」
美鈴の声で美咲が斜め上を見上げると、城之内蓮が立っていた。
「おう、蓮か。私から可愛い曾孫との時間を取り上げないでくれ」
「いや、じいさんと父さんが呼んでる。仕事の話らしい」
「おう、そうか。こんな喜ばしい席で仕事の話とか、あいつらも気が利かないな。悪いが、美咲、美鈴、長瀬からプレゼントを受け取っておくれ」
曾祖父は、ニッコリ笑ってそういうとその場を離れて行った。
「美鈴さん、美咲さん。こちらを」
曾祖父の秘書である長瀬から、二人はプレゼントの袋を受け取った。
「ありがとうございます」
「ありがとう長瀬さん」
2人のお礼の言葉にわずかに笑顔を見せつつ曾祖父を追いかける長瀬を見送ると、美咲はすぐにテーブルのケーキに視線を移した。
゛美味しそう゛
曾祖父の挨拶も、曾祖父のお祝いも、美咲にとってはただのお飾りで、気持ちは完全に、目の前の誕生日ケーキに釘付けになっていた。
先程、7本のロウソクの火を吹き消した美咲用のケーキ。
イチゴいっぱいのストロベリータルト。
「食べたいのか?」
涎を垂らす勢いでストロベリータルトを見つめる美咲に声をかけてきたのは、先程の高校生、蓮だった。
八雲メディカルコーポレーションの製品開発部の部長であり、美咲の直属の上司だ。
さらさらの黒髪に銀色のフレームレスの眼鏡。
メタリックグレーのスーツに紺色のネクタイ。
背は178cmと高いが、小学校時代から陸上で鍛えた体は締まっていて若々しい。
美咲の母である八雲智恵子と、蓮の母である城之内恵子は、従姉妹というだけでなく無二の親友であり、美咲も幼い頃から城之内家族とは親交が深い。
幼い頃から何度も顔は合わせていたはずだが、美咲が覚えている蓮との最初の思い出は、小学校の入学式を終えた日の夜のことだ。
美咲は6歳。
蓮は16歳で高校2年生だった。
その日は、美咲の小学校入学と蓮の妹である城之内美鈴の中学校入学を祝うために、八雲家と城之内家は、曾祖父の家を訪れていた。
さらに4月12日は美咲の誕生日なので、そのお祝いもかねての祝賀会だった。
曾祖父は本当に子煩悩で、子供だけではなく孫も曾孫も大層可愛がってくれた。
親族の誰かにお祝い事があると、その度毎に親族を集めては祝辞を述べる。
それが彼の生き甲斐であり、八雲メディカルコーポレーションをここまで大きくした曾祖父の人間性の現れだった。
「美咲、美鈴、入学そして誕生日おめでとう。ここまで何事もなく健やかに育ってくれて本当に嬉しいよ」
85歳になる曾祖父は、幼い頃に末の妹を流行り病で亡くしており、ことさら美咲と美鈴を可愛がっていた。
特に美咲は曾祖父の妹にソックリだとかで、なめ回す程の勢いで抱きつかれて困ったものだ。
「ひいおじいさん。美鈴も美咲も困ってますよ。そのぐらいにして下さい」
苦しくて困っていると、後ろからグイッと引き離された。
「お兄ちゃん」
美鈴の声で美咲が斜め上を見上げると、城之内蓮が立っていた。
「おう、蓮か。私から可愛い曾孫との時間を取り上げないでくれ」
「いや、じいさんと父さんが呼んでる。仕事の話らしい」
「おう、そうか。こんな喜ばしい席で仕事の話とか、あいつらも気が利かないな。悪いが、美咲、美鈴、長瀬からプレゼントを受け取っておくれ」
曾祖父は、ニッコリ笑ってそういうとその場を離れて行った。
「美鈴さん、美咲さん。こちらを」
曾祖父の秘書である長瀬から、二人はプレゼントの袋を受け取った。
「ありがとうございます」
「ありがとう長瀬さん」
2人のお礼の言葉にわずかに笑顔を見せつつ曾祖父を追いかける長瀬を見送ると、美咲はすぐにテーブルのケーキに視線を移した。
゛美味しそう゛
曾祖父の挨拶も、曾祖父のお祝いも、美咲にとってはただのお飾りで、気持ちは完全に、目の前の誕生日ケーキに釘付けになっていた。
先程、7本のロウソクの火を吹き消した美咲用のケーキ。
イチゴいっぱいのストロベリータルト。
「食べたいのか?」
涎を垂らす勢いでストロベリータルトを見つめる美咲に声をかけてきたのは、先程の高校生、蓮だった。