寡黙なダーリンの秘めた愛情
「蓮くん、辛いの?大丈夫?」

「ああ、辛い...」

いつも寡黙で冷静な蓮がここまで弱っているのを美咲は見たことがなかった。

だから、美咲も動揺していたのかもしれない。

エレベーターの中でも、美咲が蓮を支えているというよりはいつの間にか蓮に抱きつかれているような態勢になっていたが突っ込み切れずにいた。

「美咲...」

何を聞いても美咲の名前しか呼ばない。

らちが明かないので、美咲は鍵を開けて、蓮を室内のソファに座らせると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し蓮に差し出した。

しかし、蓮はそれを受け取らずに、傍らに置いてあったウイスキーの瓶に直接口をつけ始めた。

「蓮くん、ダメ!これ以上飲んだら体を壊すよ」

蓮がゴクゴクとウイスキーを数口嚥下したあと、驚いてそれ以上飲むことを制止した美咲を蓮が悲しそうに見つめる。

「やめさせたいなら美咲も飲んで。大人になったんでしょ?」

「蓮は知らないかもしれないけど、アメリカ、いや、この州ではお酒は21才からだよ」

「美咲は日本人だ。それにここには俺しかいない。美咲が飲まないなら俺が飲む」

そうしてまた、ウイスキーを煽ろうとするから質が悪い。

「もう、蓮くんは絡み酒なの?泣き上戸なの?どっちにしろ、私にはそんな強いお酒は飲めないよ」

美咲が蓮の右腕を掴んで涙目で見上げると、赤い顔をした酔っぱらいの蓮が益々顔を赤くして

「そう思ってこれを...」

と、保冷バッグから缶に入ったカクテルを取り出した。

日本の商品を扱うスーパーで購入したと思われるそれは、以前、美咲が大人になったら飲みたいと言っていたストロベリーサワーだった。

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