寡黙なダーリンの秘めた愛情
「蓮、君は重役秘書のアカイケユリアとずっと付き合ってるんだってね。知らなかったよ。今すぐ美咲と別れてくれないかな?」

ジムの蔑んだ目に、蓮の顔は怒りで震えている。

「なんだよ、それ。赤池さんは俺の一つ上の先輩で、秘書の一人。それ以上でもそれ以下でもない。冗談でも美咲と別れろなんていうな!」

珍しく声を粗げる蓮に、冷静な萌が言葉をかける。

「冗談ではありませんよ。赤池さんが美咲にハッキリと『蓮さんと自分は付き合っている』って言ったそうです。その上、結婚を控えた新婦の頬を叩いて傷つけた。『あんたなんていなくなればいい』とまで言ってね」

「はっ?なんだよそれ・・・」

蓮と由利亜が付き合ったことなどない。

それどころか、二人きりで出掛けたことも、手を繋いだことすらないはずだ。

蓮が新人のとき、一度だけ由利亜から゛自分と付き合ってみる気はないか゛とほのめかされたことはあったが、好きな人がいると答えたらあっさり゛冗談だ゛と引き下がったではないか。

「はっ!自覚がないようね。あんたのその鈍感さが美咲を傷つけ、アメリカに追いやる原因になったというのにね」

ホイットニーの言葉に立ち尽くす蓮は、美鈴と萌の語る話に徐々に怒りが込み上げてきた。

二人の話はこうだ。

赤池由利亜は、将来の社長候補と噂される蓮をずっと狙っていて、周囲には蓮と付き合っていると仄めかしてきたこと。

由利亜の取り巻きは2名いて、いずれも男好きの遊び人で、由利亜と連れだってホスト通いをしていること。

美咲が高校3年生の夏、会長に頼まれたお使いの日に、偶然にも蓮の思い人が来るのを知って、由利亜と取り巻き二人が共謀して、美咲に蓮と由利亜が結婚を前提とした付き合いをしていると思い込ませたこと。

そして美咲が帰国し、八雲メディカルに就職してからも、美咲の前でわざと蓮に近づき、関係が続いているかのようにふるまっていたこと。

あげくに結婚が決まった美咲に、邪魔者呼ばわりして手を挙げ傷つけた。

今でも美咲は蓮と由利亜が付き合っていると思っているのだと、萌と美鈴は教えてくれた。

「美咲・・・」

これまでのよそよそしい美咲の態度がすべて腑に落ちた。

どこか悲しそうな笑みも、遠慮がちな瞳も、すべては赤池由利亜の企みのせい。

「あの女・・・」

思わず呟いた蓮に

「あの女のせいだけじゃないわ。蓮の言葉が足りないのも理由の一つよ。美咲だって思い込みが激しすぎるし」

とホイットニーが冷静に諭した。

「もっと正直に、君達は本音を話すべきだよ。今日は、二人の思いが本当に通じ合うための、最愛の天使がくれたチャンスだ。正直になってね」

そんなジムの言葉を最後に、四人は蓮と美咲をリビングに残して帰宅して行った。

< 42 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop