寡黙なダーリンの秘めた愛情
「お祖父様、今なんと仰いましたか?そして城之内部長も・・・」

15年の月日、蓮との思い出を走馬灯の様に思い起こしながら、美咲は呆然と呟いていた。

「もちろん2人の結婚の話だよ。うまく纏まって良かった」

「誰と誰の結婚ですって?」

「蓮くんと美咲の」

「Oh my goodness !(なんてこと!)」

中学高校と女子校に通った美咲は、このままでは社会人になって男性と接することは困難になると考え、思いきって海外の大学に留学を決めた。

外国人の男性なら、男性と意識せずに接することが出きるのではないかと考えたためである。

過保護な兄代わりである蓮から卒業するためにもそれが一番良いと考えていた。

蓮には長年付き合っている美しい恋人がいたはずだ。

美咲が高校三年生の夏、会長に呼ばれて訪れた八雲メディカルコーポレーションの玄関の近くの路地で、美しくて大人な女性と抱き合う蓮を見かけた。

その人は、祖父達役員の全体を補佐する秘書の一人。

会社のパーティーで見かけたことのある女性だった。

あんなにイケメンで仕事のできる蓮に恋人がいないとは思っていなかった。

だが、現実に目の前でそれを突きつけられると、美咲の心は想像以上の衝撃で打ちのめされることになった。

それは兄のように慕う親愛の情ではない、女としての嫉妬。

気づいた瞬間に儚く散った初恋。

その瞬間、美咲はこれ以上蓮の近くにいてはダメだと悟った。

兄として蓮に接することが美咲に与えられた使命。

そうして、斜め上の思考に捉えられた美咲は、誰にも相談せずに進路を決めた。

翌年4月、美咲はアメリカに旅立った。

5ヶ月間の語学留学と3年7ヶ月の大学生活。

蓮と遠く離れて過ごす日々は、物足りないながらも、美咲を大人の女性へと成長させていった。
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