寡黙なダーリンの秘めた愛情
「城之内美咲さん、主治医の山中です」

コンコン、とドアをノックする音に美咲が目を覚ますと、外来でお世話になっている女医が部屋に入ってきた。

「おかげんはいかがですか?」

優しく微笑む馴染みの先生の顔を見て、美咲はホッとする。

「突然の入院で驚かれたことと思います。ご友人にお聞きになったかも知れませんが、城之内さんは、今、23週4日で切迫早産という状態です」

切迫早産とは、その名の通り、出産が差し迫った状態。

「転んだことがきっかけとは一概に言えませんが、城之内さんの子宮は今、頻回に収縮が起こっており、子宮口が軟化しはじめている状態です。それを止めるために子宮収縮抑制剤を始めました」

「転んで腰とお腹を打ったとき、出血したような気がしたのですが...」

美咲の不安な問いに

「いえ、出血も破水もしていませんでした。おそらく失禁だったのでしょうね。お腹が大きくなってきた妊婦さんには良くあることですよ」

と、山中医師が答えたのでひと安心した。

「シッキン?」

また、ジムが食いついていると美咲は気付いていたが、今は相手にしている場合ではないので、放っておくことにした。

「妊婦の外傷で起こりやすいのは、常位胎盤早期剥離といって、予定外に胎盤が剥がれてしまう状態です。そうなると出血して母体も赤ちゃんも命の危険にさらされてしまうので、緊急帝王切開になるところでした。そうならなくて幸いでしたね」

女医の言葉に、美咲は心から安堵した。

「ですが、油断は禁物です。このまま子宮収縮がおさまって子宮口が開かなければ、内服薬に切り替えて退院も可能ですが、このまま入院継続してお産になってしまう例もあります。それに常位胎盤早期剥離は、妊婦全体の1%にしか発症しませんが、妊娠28週以降から、34週をピークにして突然何の前触れもなく起こります。原因は、高血圧や喫煙と言われていますが、明らかな原因は不明です」

聞けば聞くほど恐ろしい事実に、美咲は目の前が真っ暗になった。
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