寡黙なダーリンの秘めた愛情
「どうして私と城之内部長が結婚する話になっているのですか?私達はお付き合いどころか愛し合ってもいないのですよ?」

美咲の発言に、眉をひそめて美咲を見つめる蓮。

「聞いてなかったのか?すべては曾祖父の希望だ」

と、不服そうに言葉を発した。

「喜久蔵おじいさまが?」

「そうだ。じいさんは蓮と美咲に会社を継いでもらいたがっている」

ニコニコと笑う橋之介とは違い、蓮は始終ブスっと不貞腐れていた。

御年100歳になる曾祖父・喜久蔵は、未だに呆けてはおらず、やや長距離の移動は車椅子に頼るとはいえ、身の回りのことは自分でできる生活レベルだ。

今は現役を引退し、美咲の祖父である橋之介に会社を譲ってからも会社運営には絶大な発言力を持つ。

「ああ、蓮の仕事の能力は言うに及ばすだが、美咲のコミュニケーション能力とメディカルエンジニアリング分野でのセンスは抜群だと父も言っている」

橋之介は、63歳になっても100歳の父親に頭が上がらない。

蓮の祖父である直之助73歳と、美咲の祖父である橋之介は兄弟。

直之助は八雲家の長男だが商才はなく、田舎でのんびりと農家を営んでいる。

娘の恵子を八雲メディカルコーポレーションに就職させ、義理は果たしたとばかりに自身は会社にはノータッチだ。

そんな中、恵子が結婚したのは、八雲メディカルコーポレーションの若きエースだった城之内誠也。

現在52歳で八雲メディカルコーポレーションの副社長に上り詰めている。

誠也は人は良いが、もちろん野心もあり、次期社長になるのは彼だと言われている。

美咲を溺愛する曾祖父と祖父の申し出なら、例えそれが望まぬ政略結婚でも、誠也も蓮も゛ノー゛と首を振ることは出来はしまい。

「もう決まったことだ。智恵子も慎太郎くんも賛成している。もちろん、恵子さんも誠也くんもな」

直之助の言葉に、美咲はじっと蓮を見つめる。

「蓮くんは...城之内部長はそれでいいんですか?」

「ああ、美咲がいいならな」

視線を反らした蓮の言葉に、美咲は泣きそうになった。

「そう、ですか。わかりました。そのお話お受けします」

俯いた美咲の耳に響いたのは、蓮の大きなため息の音だった。

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