寡黙なダーリンの秘めた愛情
それからひと月が経過した。

慌ただしい結納を終えたと思ったら、あれよあれよと6月に結婚式を挙げることになった。

何せ2人の曾祖父である喜久蔵は100歳。

いつお迎えが来てもおかしくない年齢だ。

「わしが生きている間に玄孫を抱かせてほしい」

そんな喜久蔵の一言から、周囲は蓮と美咲を追い詰め、美咲をジューンブライドの花嫁に仕立て上げようと目論見、成功した。

「美咲、俺との結婚を前向きに考えてくれてありがとう。例えそれがひいじいさんのためでも俺は嬉しいよ」

婚約指輪を渡す際、蓮の困ったような照れ笑いが心の痛みを増強させた。

゛本当に好きな人と結婚しなくて良かったのかな?゛

蓮と美咲の結婚が決まり、会長からその事実が講堂に集まった社員に知らされた際、会場の隅から睨み付けるような、今にも泣きそうな顔で美咲を見つめるあの女性を見つけた。

1年前に八雲メディカルコーポレーションに就職してからも、蓮とその女性が仲良く肩を並べて歩いているのを見かけることがあったのだ。

2人の関係は続いていたに違いない。

他の社員から゛ずいぶん前から2人は付き合っている゛という話を聞かされることもあった。

美咲は、その女性からの激しい視線に耐えられず目を背けた。

チラッと横に立つ蓮を見上げると、昔と変わらない優しい眼差しで美咲に微笑み返す様子にドキッとする。

ほどなくして、周囲に気付かれないように女性が講堂から出ていくのが視線の端でわかった。

゛私最低かも゛

彼女の視線から逃れてホッとしている自分が、蓮の結婚相手があの人ではなかったことに安堵している自分が情けなくて、酷く滑稽に感じてた。

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