寡黙なダーリンの秘めた愛情
「・・・もしもし?・・・蓮くん?」

10コールで切ろうと考えていた蓮は、予想外に電話に出てくれた美咲に驚いた。

「み、美咲?大丈夫か?痛くはないか・・?それより電話に出ても大丈夫なのか?」

「蓮くん、私が入院したの知ってるんだね・・・。うん、ホイットニーが特室に入院させてくれたから、この中だけなら携帯は使用してもいいって」

美咲の優しくて可愛らしい声が蓮の心を癒していく。

「入院したんだろう?すまない、俺のせいで・・・」

蓮の覇気のない声に

「違うよ。私が油断したからつけこまれたのかも。・・・゛それに重いものは持てません゛と正直にいうとか、警備員さんに運ぶのを頼むとかすればこんなことには・・・」

「美咲は悪くないのに、自分を責めるな。それこそ相手の思う壺だぞ」

その言葉はブーメランとなり、動揺していた蓮の心も冷静にさせた。

「・・・ねえ、聞こえる?これ、べべちゃんの心音なんだよ」

スマホから、ドクドクドクドク、と130bpm前後の早い心拍音が聞こえる。

「精一杯、ここで生きてるよって、ベベが私に話しかけてくれるの。私が悲しいことを考えると、べべの心拍数も上がるんだよ」

嬉しそうな美咲の言葉に、つい蓮の表情も笑顔になる。

「さっきね、私がお母さんのお腹の中にいるときに10歳の蓮くんがずっと話しかけてくれていた夢を見たの。あれって本物の記憶だよね?私、なんとなく覚えてるの」

確かに蓮はことあるごとに、智恵子のおなかの中のミサキに話しかけていた。

美咲の゛夢゛゛思い込み゛゛願望゛だと言ってしまえばそれまでだ。

だが、美咲への蓮の当時の想いが通じていたと信じたい。

「ねえ、蓮くん、私、幸せだよ。蓮くんがいて、友達がいて、べべがいる。すべてが繋がって私が今ここにいるの。私も安静にして退院できるように頑張るから、蓮くんがも安心してお仕事に励んでね」

「・・・ありがとう。美咲、悪いけど、べべの心音を録音したい。スマホを近づけてくれるか?」

蓮は、わかった、という美咲の言葉を聞いて゛Rec゛のボタンを押す。

その規則的な音に、かつて智恵子のお腹に耳をあてて聞いたミサキの心音を重ねる。

「録音できた?」

美咲の声にも停止を押さずに会話を続ける。

「ああ・・・美咲」

「ん?」

「愛してる」

「フッ、私も愛してる。帰ってくるのをお利口さんに待ってるから、お仕事頑張るんだよ」

「わかった。・・・ありがとう」

蓮はそっと停止ボタンを押すと、美咲と何気ない話をして通話を終えた。

蓮はまたひとつ、美咲から宝物をもらった・・・。
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