寡黙なダーリンの秘めた愛情
その後、蓮と誠也は美鈴と別れ、N大学の本田教授とその部下の准教授である中原を伴って食事に出かけた。

本田教授は、循環器分野の集中治療で名を馳せている著名人だ。

今回、N大学に導入してもらったモニタリングシステムも、本田の助言で改良を重ねてきたもの。

明日のランチョンセミナーでは、その有効性を発表してもらうことになっている。

「いやあ、城之内さん、八雲が開発したあの循環動態モニタリングシステムは本当に素晴らしいですよ。明日はそれを臨床で使用した有効性を発表するから期待しておいてください」

ご機嫌な本田教授は、お酒が入ってからも乱れることなく常に紳士だ。

「恐れ入ります」

「そうそう、城之内課長は、研究室の八雲美咲さんと結婚したんだってね。おめでとう。今日は彼女は来てないの?」

蓮は、そう言った本田の問いに

「妻は今妊娠中でして・・・」

と言葉を濁した。

「そうか、それはダブルでめでたいね。しかし、彼女が研究中の例の人工心肺装置だけど、T光電の営業が゛そのうち似たような装置をうちから販売するかもしれないから期待してください゛って意味深なことを言っていたよ。どこかに内通者がいるんじゃないの?気を付けないとね」

と、本田は、お祝いの言葉に続いて、何気に重大な発言をした。

「そのT光電の担当者の名前はわかりますか?」

「ああ、さっき名刺をもらったからね」

蓮の問いに、本田教授はポケットから名刺を取り出した。

そこには゛T光電営業開発部主任:八雲義次゛

と書かれていた。
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