寡黙なダーリンの秘めた愛情
「今日は学会前の貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございました。明日もどうぞよろしくお願いいたします」

蓮と誠也は、このあとも同僚と飲みに行くという本田教授に挨拶をして食事会をお開きにした。

料亭の喫煙コーナーに移動した二人は、周囲に怪しい人物がいないかを確認して会話を始めた。

「八雲政義専務の次男は、T光電に勤めていたんだったな。赤池由利亜と一緒にいた義一といい、こりゃ、完全に黒だな」

と誠也は顔をしかめる。

「前回の人事で、政義専務の兄である美咲のじいさんが会長になり、外縁の城之内から親父が副社長、お袋の姉さんの旦那が社長になった。政義専務がその事を面白くないと思っているのは知っている」

蓮も誠也も喫煙者ではないため、この閉鎖空間の臭いは正直苦痛であったが、内密な話を誰かに聞かれるのは不味い。

「その上、曾祖父さんのお気に入りの美咲と俺が結婚して、いずれ親父と俺が社長職に就くと言われているのが義一達も気に入らないんだろうな」

鼻と口を覆いながら顔をしかめて、蓮はこれまでの人事を振り返り、八雲専務の家族から城之内家が恨まれていることを思い出す。

「休憩コーナーの監視カメラのデータを振り返っていたら、頻繁に会計課の松本歩花と義一が逢引きしている様子が映っていた。恋人同志なのかとも思ったが、何かをやり取りしてはすぐに離れるの繰り返しで、もしかしたら情報漏洩に関与しているんじゃないかと監視はしてたんだ」

蓮の言葉に

「じゃあ、赤池由利亜も共犯者ということで間違いないのか?」

と誠也が反応する。

「いや、それは、これからレンジとかいうホストと同伴して、俺との仲をでっち上げる赤池さんを問い詰めて白状させるよ」

誠也は蓮の言葉に頷くと、喫煙コーナーを出て、店の外にいる怪しいトレンチコートの男の存在を横目で確認しながら、宿泊先のホテルへ向かった。
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