都合の良い店
しかし、何故か慌てることはなかった。理由などないが、自分がここに座っていることが何か現実とかけ離れている気がしている。頭がポワーンとしていて赤い風船が風に乗ってぷかりぷかりと浮かんでいるような感覚だ。


「今回はどのようなご用件で?」

店の女が聞いた。

私は言いにくそうな感じを浮かばせながらモジモジとしてみせた。

「あの、ご用件はどんな?」

相変わらず店の女は単刀直入であった。私は少しモジモジとしてみせながらも声を圧し殺すようにして答えた。

「交換で」

そう言ったあと息子がいる部屋のドアのほうを振り返った。ドアは静かに閉まったままである。私はもう一度、「交換でお願いします」と言った。もちろん小声である。

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