音楽のほとりで
「うん、美味しそう」
尚のそれには、ほうれん草の緑色のソースが全体にかかっていてその香りがふわっと漂ってくる。
南のものは、かりっと良い具合に焼けたベーコンが視覚と嗅覚の双方から食欲を誘う。
「いただきましょうっ」
それぞれが目の前にあるガレットを丁寧にナイフとフォークを扱って食べ始める。
2人があまりにも美味しそうに食べているからだろうか、時々店員が来て笑ってフランス語で「美味しい?」と尋ねる。
それに、尚は「とても美味しいです」と答えると、店員は嬉しそうに厨房の方へ戻って行く。
そうしてガレットを食べ終えると、次はクレープが現れた。
日本のそれとは大分見た目が違い、今目の前にあるクレープにはまず生クリームが乗っていない。
そうして、三角に折りたたまれた生地に、シンプルにチョコレートソースが掛けられてあるばかりである。
2人はそれを引き続きナイフとフォークを使って食べると、その生地の食感はもちもちしており、シンプルなのに、いや、シンプルだからこそ味わい深い。
チョコレートの甘さがそのもちもちの生地とちょうど合って絶妙に美味しい。
「私、日本のよりもこっちのクレープの方が好きかもです」
「うん、たしかに。シンプルだけど美味しいし、なにより胃もたれしなくていい」
と、冗談っぽく言う尚に、ふふっと笑みがこぼれる南。
2人はあっという間にそのクレープを食べてしまった。