音楽のほとりで

演奏が終わると、ある人が立ちあがって拍手をし、それに続いて何人もの人が次々と立ち上がり最後には全員が腰を上げた。

ルイのその表情は、どこか吹っ切れたようなそんな顔だ。

2人は深くお辞儀をして、舞台の上からいなくなる。

それでも鳴りやまない拍手は、この会場に響き渡る。








「お疲れ様」

「ルイ、出るなら言ってくれればよかったのに」

「驚かせたかったんだ」

ルイの顔は、舞台の上で見た凛々しさから、力が抜けて安心しきった表情になっていた。

その彼の表情を見て、南は彼の身体を抱きしめる。

頭ひとつ分の身長差がある2人で、ルイは自分の顎を南の頭の上に乗せて、後頭部をポンポンとさする。

「ルイさんの独奏も、2人の連弾も凄かったです。また、聴きたいです」

「今度からはいつでも聴かせてあげるよ。ね、ルイ?」

「ははっ。そうだね。桜さんが聴きたいときにいつでも弾くよ」

いつの間にか、ルイと尚は名前で呼び合うほど親しくなっており、その2人の姿を見た桜は、まるで子供がサンタクロースからプレゼントをもらった時のような嬉しさを感じた。

「1日につき1000円ですよ。特別割引です」

「ええ、お金取るの?」

「冗談ですよ」

南の言葉を聞いた他の4人ははははっとそれぞれに笑っていた。
< 138 / 142 >

この作品をシェア

pagetop