音楽のほとりで
スマホの画面を見てから、彼女は一点を見つめてぼーっとしていた。

特にやることがないのだろうか、それともスマホの画面に彼女をそうさせる何かが写っていたのだろうか。

十数分すると、彼女の目の前にパスタが運ばれてきた。

トマトソースとチーズとバジルの香りが漂ってくる。

香りを楽しむわけでもなく、彼女はテーブルの上にあるフォークを取り、表情を変えずにただただ食べている。

その表情からは、美味しいのかどうかが全く分からない。

ただ、途中で一言だけ「うん」と言う彼女の声が聞こえてきたから、恐らくそれなりに美味しいのであろう。

特に休憩することなくそのパスタを食べ終えると、食後のコーヒーを注文した。

それはすぐに届くき、彼女はどこかホッとしたような表情でそれを飲み始めた。

そして、スマホで時間を確認すると、会計を済ませて足早にそこを後にした。

彼女再びどこか目的地へと歩き始める。

途中にある宝石のようにチョコレートか飾られてあるショコラティエにも、焼きたてのパンが並んでいるパン屋にも目を向けない。

一瞬だけ、ショーウィンドウに飾られてある鮮やかな青色のコートをチラ見するも、そのまま立ち止まることなく彼女は歩いた。

すると、ある建物の前でようやくその足を止める。

見ると、今日これから、ここでクラシック音楽のコンサートが開催されるらしい。

彼女は鞄からそのチケットを取り出すと、その建物の中へと入って行った。
< 2 / 142 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop