音楽のほとりで
「今日はありがとうございます」
「いえ、共通点があることが分かって嬉しかったですよ。また、音楽の話でもしましょう」
「はい」
「家まで送りますよ」
「大丈夫です、実は、尚が迎えに来るってうるさくて」
2人でお寿司を楽しんでいる最中、尚からメールが来ていた。
もう夜も遅いから迎えに行く、と。
「もう少しで来るはずです」
「そうなんですね、それなら、それまで待ってますよ」
「いえいえ、大丈夫「桜」
断ろうとしたその時、尚の声が聞こえてきた。
「こんばんは」
「こんばんは。またお食事連れて行ってもらって、すみません」
「いえ、楽しかったですし。それより、先日は挑発するようなこと言って、申し訳なかった」
「ああ、それなら大丈夫です」
尚は、本当に何も考えていないのか、あっけらかんとしている。
「日本に、桜をそんな風に思ってくれる人がいて良かったと思ってます」
「え?」
桜は、尚の意外な言葉に、思わず聞き返してしまう。
「桜が1人にならずに済む」
「尚は? 尚と一緒にいれば1人にならない」
「それは、日本を離れるということ?」
「それは……」
桜には、返す言葉がなかった。
「2人とも、これから冷え込みますし、それぞれ家に帰りましょう。話はそれからでもいいじゃないんですか?」
「そうですね、じゃあ桜、帰ろうか」
「あ、うん。今日は本当にありがとうございました」