音楽のほとりで
電車から降りて住宅街に入ると、明かりも少なくなって尚の姿がよく見えない。
それに、今日はいつもよりも歩いている人が少なく、なんだかもの淋しい感じがする。
電車の中でも、桜は気まずさから尚の顔を見ることができず、電車から見える風景をひたすらに見ていた。
なんで、あんなことを言ったのだろうかと桜は考えるも、尚の考えていることが分かる筈もなく、1人悶々としている。
「尚っ」
そう呼ぶと「ん?」と言って立ち止まる。
「なんであんなこと言ったの?」
尚は少し間を置いて、口を開いた。
「桜を、困らせたくなかったから。でも、そんな顔させて……余計に困らせちゃったみたいだね」
弱弱しい小さな声で「ごめんね」と言う。
その声を聞いて、桜は思った。
謝って欲しいわけじゃない、困らせたいわけでもない。
「……私こそごめんね」
何に対する言葉なのか、桜は自分自身でもよく分かっていなかった。
ただ、とにかく、尚のごめんねを消したかった。
尚にごめんねと言わせてしまった自分が嫌だった。
顔を上げて空を見ると、星が一つだけ暗い空の中にあった。
その光は、いますぐにでも消えてしまいそうだった。