音楽のほとりで
プレゼント
久しぶりにその箱を開けた桜は、その中に入っている一つ一つを手に取る。
「こんなのもあったなあ」
それは、小さなピンク色の貝殻。
幼い頃、尚と尚の家族と一緒に海に行ったとき、尚はずっとなにかを必死に探していた。
桜が話しかけても、「ちょっと今忙しいからまたあとでね」と言い、ひたすらにしゃがみながら砂浜を見続けている。
桜は仕方がなく、1人で砂のお城を作ることにした。
時々尚の姿を見るも、まだまだ飽きずに何かを探している。
桜は、諦めてお城を作ることに専念する。
暫く経って桜のお城も完成しそうな時だった。
「桜」
「なあに?」
「これ、あげる」
満面の笑みで、ピンク色に輝く貝殻を桜の手に握らせる尚は、満足そうな表情をしている。
「海にはすごく奇麗な貝殻があるって誰かが言っててね、それを桜にあげたくてずっと探してんだ」
「本当に、奇麗」
「でしょ? 桜、ピンクが好きだし絶対喜ぶと思った。桜の名前と同じピンク色」
「嬉しい。ありがとう」
「うん」
そんな思い出が蘇ってくる。
あの時の潮の匂いや波の音、周りにいた家族の笑い声。
そのピンク色の貝殻は、今でも輝きを失わずに光っていた。