音楽のほとりで
次に手に取ったのは、折り畳み傘だ。
「尚、また忘れてきちゃったよ」
桜は、教室で暗くなった空を見て、それに対してため息をついている。
どんどんと落ちてくる雨は、止みそうにもない。
校庭や道路に、大きな水溜りを作っている。
小学生は、笑いながらその中に入って遊んでいた。
「また? 今日は一緒に帰れないから、桜これ使っていいよ。僕は傘置きにもう1本あるから。ていうか、それ桜にあげるね。今度からはそれ持ち歩きなよ」
尚は、はいといつもの白い傘を桜に渡した。
中学生の時、折り畳み傘を持つ習慣がなかった私は、いつも突然の雨になると困っていた。
その時はいつも、尚に傘に入れてもらっていた。
そんな私にくれたのが、この折り畳み傘だった。
私は、なぜかこの傘を使うのが勿体なくて、この箱にそっと閉まったのだ。
だから、この折り畳み傘を使ったのはその日が最後だった。
桜はそっと、折り畳み傘を再び箱の中に戻した。
「あ、これ」
次に手に取ったのは、ピアノのキーホルダー。
高校生の頃の誕生日プレゼントだ。
キラキラと石が輝いている。