音楽のほとりで
尚と桜は、同じ誕生月で、いつも12月20日に誕生日プレゼントを交換していた。
同じ誕生日だと知った時は、なぜだか親たちが喜んでその年は盛大な誕生日パーティまでしたのだった。
プレゼント交換は、尚が海外に行くようになってからは出来なくなってしまったけれど……。
桜と尚がそろそろ高校生になる頃だった。
「最近、鍵、持ち歩くんだけど、なんかキーホルダーとか付けたいんだよね、これじゃあ鞄の中から取りにくいし。でも、可愛いのが沢山あって迷っちゃう」
うーんと言いながら、お昼を食べ終えた桜は机に体を伏せている。
「桜って、優柔不断だよね」
尚は、いつものことのように言う。
「そう、それで結局いつも買わないの」
「うん、知ってる」
何かを思い出したかのように尚はふっと笑った。
桜は、そんな尚には見向きもせずに、何も付いていない鍵を持って空に向ける。
「家に帰って誰もいないのって、結構寂しいよ」
「それなら、うちへ来ればいいのに」
「え、いいの?」
「桜が来たいときに来ればいいよ」
尚は桜が持っている鍵を桜の手ごと、自分の手でぎゅっと握りしめる。
まるで、桜がそれを使わなくても良いと言っているかのように……。
その年の12月20日に、尚は桜にそのピアノのキーホルダーを誕生日プレゼントとして渡した。
桜はそれを付けていたが、しばらくすると鍵を持ちあることもなくなり、この箱に閉まったのだった。