音楽のほとりで
悩み、悩む
「おはよう、桜」
朝起きると、尚が目の前にいる。
「え?!」
桜は瞬時に寝ぼけた顔を布団で隠した。
尚の姿を確認するために、目だけを布団の隙間から覗かせる。
窓からの明かりで尚が照らされるように見えて、眩しい。
「今日は桜のレッスンの様子を見ようと思って。ね? いいでしょ?」
いきなり朝からそんな突拍子もない提案をしてくる尚に、桜はまだまだ頭が働いていない。
「えっと……なんで?」
「世界の尚様が桜のレッスンのチェックをするのです」
と、胸を張って言う尚に、桜はあははと笑うしかなかった。
「まあ、今日だけなら……多分みんなも喜ぶし」
世界的ピアニストが目の前にいるなんて、そうそうないことだ。
きっといい刺激になる。
「じゃあ、下で待ってる。早く着替えてきてね」
まるで、自分の家かのように振る舞う尚に、少し呆れる桜だが、頭が冴えてくればくるほど、あの宝箱のことが蘇り、顔が熱くなってくる。
「尚のバカ……」
と、本人がいないところでそっと呟いた。