音楽のほとりで
彼女は、すぐに自分の座席を見つけて座る。
ようやく、彼女から鋭い雰囲気が消えた瞬間だった。
今日のコンサートの主役は、オーケストラではなくピアノで、彼女の席からはピアノの鍵盤までが見える。
彼女は、時間を確認すると、一度席を立った。
ホールから出ると、グラスを持った人達で賑わっている。
周囲から聞こえてくる言語の種類の多さに、このピアニストが世界各国から注目されているということが分かった。
もちろん、中には彼女と同じ言語を話す人も混ざっている。
彼女も、1つ皆と同じ金色のお酒を注文すると、1人それをひっそりと飲んだ。
時々、ふうっと溜息をつく。
それを飲み終えると、売られてあるパンフレットを手に取り、それを購入した。
空いている壁に寄りかかって、彼女は買ったばかりのそれを眺める。
表紙に書かれてある「Nao Takakura」をじっと見つめる彼女の目からは、どこか寂しさを感じさせる。
それをペラペラとめくり、最後のページまでいったところで、それを鞄の中にしまった。
再び自分の席へと戻る。
すると、先ほどは空いていた隣の席に、日本人と思われる男の人が座っていた。
男は、彼女の姿を確認すると
「もしかして、日本の方ですか?」
と、遠慮がちにそう話しかけてきた。
「はい、そうです」
そう彼女が言うと、男の表情は緩んでその顔に笑顔が宿る。
「日本から聴きにいらしたんですか?」
「はい、でもやっぱりフランスは遠いですね」
「私もです。そうですよね、でも聴きに来られて良かった」
「ファンなんですか? ピアニストの」
「僕はどちらかというとオーケストラを聴きにきたんです。ピアノ協奏曲の中でこの曲が一番好きなもので。しかも、ピアニストは今をときめく高倉尚でしょう、どんな演奏をするのかチケットを買ったその日から楽しみにしていました」
「そうなんですね。あなたは、何か楽器をされるんですか?」
「ええ、とはいうもののまだまだ下手なんですが。それに私の専門は音楽学でして、今は大学の講師として教えてる身です」
「へえ、すごいですね」
まさかの音楽関係者に、彼女は心の底からその言葉を発する。
2人が話していると、会話を遮るように開演を知らせるブザーが鳴り響いた。
ようやく、彼女から鋭い雰囲気が消えた瞬間だった。
今日のコンサートの主役は、オーケストラではなくピアノで、彼女の席からはピアノの鍵盤までが見える。
彼女は、時間を確認すると、一度席を立った。
ホールから出ると、グラスを持った人達で賑わっている。
周囲から聞こえてくる言語の種類の多さに、このピアニストが世界各国から注目されているということが分かった。
もちろん、中には彼女と同じ言語を話す人も混ざっている。
彼女も、1つ皆と同じ金色のお酒を注文すると、1人それをひっそりと飲んだ。
時々、ふうっと溜息をつく。
それを飲み終えると、売られてあるパンフレットを手に取り、それを購入した。
空いている壁に寄りかかって、彼女は買ったばかりのそれを眺める。
表紙に書かれてある「Nao Takakura」をじっと見つめる彼女の目からは、どこか寂しさを感じさせる。
それをペラペラとめくり、最後のページまでいったところで、それを鞄の中にしまった。
再び自分の席へと戻る。
すると、先ほどは空いていた隣の席に、日本人と思われる男の人が座っていた。
男は、彼女の姿を確認すると
「もしかして、日本の方ですか?」
と、遠慮がちにそう話しかけてきた。
「はい、そうです」
そう彼女が言うと、男の表情は緩んでその顔に笑顔が宿る。
「日本から聴きにいらしたんですか?」
「はい、でもやっぱりフランスは遠いですね」
「私もです。そうですよね、でも聴きに来られて良かった」
「ファンなんですか? ピアニストの」
「僕はどちらかというとオーケストラを聴きにきたんです。ピアノ協奏曲の中でこの曲が一番好きなもので。しかも、ピアニストは今をときめく高倉尚でしょう、どんな演奏をするのかチケットを買ったその日から楽しみにしていました」
「そうなんですね。あなたは、何か楽器をされるんですか?」
「ええ、とはいうもののまだまだ下手なんですが。それに私の専門は音楽学でして、今は大学の講師として教えてる身です」
「へえ、すごいですね」
まさかの音楽関係者に、彼女は心の底からその言葉を発する。
2人が話していると、会話を遮るように開演を知らせるブザーが鳴り響いた。