音楽のほとりで
他愛もない話をしていると、具材が運ばれてくる。
「もし何か分からないことがあったら呼んでね」
と言い、愛想の良いおばちゃんはまた厨房の方に戻って行ってしまった。
「じゃあ、混ぜよっか」
それぞれ、自分の注文した具が入っているボウルを持ち、桜と尚はそれを混ぜ始める。
尚は、長い箸でそれを混ぜるもその重さに思い通りにならず、眉間にしわを寄せながら回している。
その顔を見て、笑いながら桜は話しかける。
「そんなに大変?」
「なかなか大変。お好み焼き作るの久しぶりだし。キャベツの量がが多くて」
「そうだよね」
そう言いつつも、桜は慣れた手つきでそらを混ぜ合わせている。
「桜は慣れてそうだね」
「一応、これでも料理はちゃんとしてるから。この前も、お好み焼き作ったの」
「へえ、桜が?」
尚の顔からは、桜の言葉を信じていないように見える。
それも仕方がない、尚は今までに料理をした桜の姿を見たことがなければ、何か桜から手作りのお菓子などを貰ったこともない。
「そりゃあ、昔はしなかったけど」
「桜も大人になったね」
「もう、当たり前のことだよ」
話をしながら回していると、ちょうど良い感じになる。
「じゃあ、焼く?」
「オッケー」
2人がそれを同時に鉄板の上に乗せると、じゅーっという食欲を引き出せる音が鳴り響いた。
だんだん焼けてくると、美味しそうな匂いもしてくる。
「これ、ひっくり返すのが難しいんだよね」
尚は、焼けていくお好み焼きを見ながらそう呟いた。