音楽のほとりで
なんとか無事にひっくり返し、その後もこんがりと表面に焦げ目が付くまで焼き、熱々のそれを2人は味わう。
桜のものを尚に、尚のものを桜にあげたりし、2人は2種類の味のお好み焼きを楽しんだ。
「美味しかったね」
「特にソースが美味しかった。また日本に戻ってきた時に食べたいよ」
「そうだね」
お好み焼きを堪能した2人は、夜空の下をゆっくりとその風を浴びながら歩いている。
「そういえば、今度生徒のコンクールがあるの」
「そうなんだ」
「なんだか、私の方が本人よりも緊張しちゃう」
「桜が緊張したら、その子はもっと緊張しちゃうね」
「そうだよね」
2人の間に、沈黙が流れる。
けれども、その沈黙を破らなくても良いと2人は思っていた。
その沈黙は、2人の間だから許されるもの。
沈黙すら、2人にとっては心地よかった。
「フランス戻っても元気でね」
「桜こそ。風邪とか引かないように」
「うん」
お別れの挨拶のようなものを済ませて、真っ直ぐ前を見て歩く2人の背中は、空に向かってピンと伸びていた。
結局、この日が2人が会う最後の日となった。