音楽のほとりで
バス停から降りると目の前に荘厳な門があり、その先には広大な土地が広がっている。
そこには『parc』とフランス語で書いてあり、フランス語にまだまだ慣れていない南もその意味は分かるようだ。
「わあ、大きな公園ですね」
「うん、偶にのんびりしたいときに来るんだ。広いから人がたくさんいても窮屈にならない」
2人の目の前には、芝生に大きな木がたくさん生えており、それはのびのびとしているように見える。
人々は、その芝生に寝転がっていたり、本を読んだり、林檎やパンを食べてそれぞれ思い思いに過ごしていた。
「僕らも座ろうか」
「はい」
ちょうどある一本の木の下が空いていて影になっていたので、2人はそこに座ることにした。
「そういえば、ピアニストの成宮ルイ、最近見ないな」
尚はふと、思い出したようにそう言った。
「え?」
「ああ、南さんはヴァイオリ二ストだしあまり分からないかな。成宮ルイって言うピアニストがいて、僕結構彼が弾くピアノが好きなんだけど、突然消えてしまった気がして」
「そうなんですね」
「って、こんな話つまらないよね。なんかふと思い出して」
「いえ! でも、その方に何があったんですかね? 同じ音楽家として心配です」
「そうだよね。僕も親しくないから情報が何もなくて。また表舞台に立ってくれることを願ってるんだ。いつか共演なんかしたいなと思って」
「いいですね、連弾とか面白そうですね」
「うん。……ていうか、お腹空かない?」
尚は、スマホで時計を確認すると、もう少しで12時になるところだ。
どうりで、何かを食べている人が多いわけだと、尚は1人納得している。
「来る途中で何か買ってくればよかったね。せっかくいい場所見つけたのに」
「広い公園だし、きっとまたいい場所見つかりますよ」
「そうだね。じゃあ、買いに行こうか」
尚のその掛け声に合わせて、2人は立ち上がる。
せっかく見つけた休むにはちょうど良い場所を離れるのは惜しいと思いつつも、2人は食べるものを求めるために一旦公園を出た。