音楽のほとりで
2人が歩いているこの辺りは、観光客も少なく地元の人が多いイメージで比較的落ち着いている。
ある通りに来ると、パン屋が何軒かあるのが、その香ばしい匂いで分かった。
どのパン屋も美味しそうで、どの店にするか迷ってしまう。
「フランスのパン屋はどこも美味しいから迷っちゃうな」
「そうですよね。ドイツも美味しいんですけど、フランスのパン屋で買って食べた時は流石と思っちゃいました」
「ドイツだと、僕はプレッツェルが好きだな。ヨーロッパは小麦粉そのものが美味しいっていうからね」
と、話をしながら歩き、2人は自然とあるパン屋の前で足を止めた。
そこは、行列ができており人気なのが目で見ても分かる。
2人は、人の切れ目からそこのパンを覗くと、綺麗に並べられたパンは視覚から美味しさを放っている。
「わあ、美味しそうですね」
「本当だね」
色々な種類のバゲットのサンドウィッチがあり、目移りしてしまう。
だんだんと列も動いてきて、ついに2人の番になった。
「私決まったので、先に買ってもいいですか?」
「うん、いいよ」
南は、バゲットのサンドウィッチを1つ、クロワッサンを3つ、そしてパンオショコラを2つ、バゲットを1本購入する。
「たくさん買うんだね」
「朝ごはんにしようと思って」
「そう」
それにしても多いな、と尚は思うが、特にそれに関しては深く聞くことなく、自分も買い物を済ませる。
「そうだ。林檎も買っていいかな?」
パン屋の近くにあったスーパーを指差して尚は南にそう言った。
「最近林檎にはまってて」
「もちろんです」
スーパーの中に入ると、つやつやとした赤や緑の林檎が並べられてあるのが目に入ってくる。
それはまるで、おとぎ話の魔女が作る毒林檎のように輝いている。
2人は、それぞれに自分が欲しいと思う種類の林檎を手に取ると、南は4つ、尚は1つを購入した。