音楽のほとりで
あっという間に時は過ぎて、ゴールデンウイークが足音を立ててやって来た。
今回は、日本にいる尚もコンサートで忙しそうで桜は彼にまだ会っていない。
ただ、なんとなく尚が近くにいるんだなと桜は感じていた。
今日は、そのコンサートがある日だ。
桜は、淡い水色のワンピースに身を纏い、いつもより濃い目の化粧をして家を出た。
木の葉の色は、鮮やかな緑になっており、太陽の光で輝いている。
桜は、その葉を眩しそうに眺める。
よく見ると、それは1色の緑ではなく、薄いものもあれば濃いものもあり、様々な緑が1つの大きな緑を作っていた。
それらの若々しい葉は、1枚1枚が太陽の光を求めて空を向いていた。
人間で言うと子供の時代だろうか、いや、もう青年の時代であろうかと思いながら桜は微笑んで駅へと向かった。
「奏音さん、待ちましたか?」
「いえ、今来たところですよ」
皺ひとつないジャケットを着て、真っすぐな姿勢で立っているのを見て、いかにも奏音らしいと思い、桜はふっと笑ってしまう。
「いやあ、人がすごいですね」
「そうですね」
正装の人や意外とラフな格好をした人まで様々な人が、同じくコンサートホールに足を向けている。
その中で小さな子供の姿を見ると、自分の昔のことを思い出すようで懐かしさを覚える。
「コンサート終わったら、会いに行きましょうか」
「そうですね」
2人も、人の波に乗って建物中へと入っていった。