音楽のほとりで
全てのプログラムが終わった。
「みんな、すごかったですね」
「はい、本当にそれぞれの楽器の持つ音、それぞれの方の音色の違いに聴き入ってしまいました」
「流石、皆さん認められているだけあります。……僕、ちょっと飲み物を買ってくるので先に控室に行っててくれますか?」
「はい、じゃあ、先に行ってますね」
桜は奏音と別れると、先に尚のいる控室へと向かった。
『高倉尚』と書かれた貼り紙を見つけると、桜はノックするが、出てきたのは尚ではなかった。
「あ、あの……あ、あなたは」
「こんにちは、白金南です。……桜さん、ですよね? どうぞ」
そこにいたのはヴァイオリニストの白金南で、南はまるで自分の楽屋かのように桜を部屋に入れた。
南は今日のコンサートの奏者で、桜はその印象強い力強い音を覚えている。
その南は、桜が名乗る前に彼女の名前を言う。
南は、まるでそこに自分がいるのが当たり前だというような態度で桜に接していた。