音楽のほとりで

桜は、結局尚にも奏音にも会わずに家まで帰ってきた。

会ったところで、きっとその表情は不自然で、そもそもあの空間に戻ること自体が無理だと思ったから。

家に着く頃には既に空は暗くなっており、昼は緑色だった木々の葉っぱは黒く見えている。

ようやく、スマホの切っていた電源をつけると、たくさんの着信やメールが着ていた。

尚、奏音、そしてあの場には居なかった美鈴まで。

尚が美鈴に連絡したんだなと思うと、桜は自分に呆れてなんだか笑えてきた。

桜は、1番初めに美鈴に連絡をした。

「桜っ、今まで何してたの」

すぐに電話に出た美鈴の声は勢いのあるもので、耳が少し痛くなる。

「ごめん」

「高倉くんから電話きて、桜と連絡取れないって」

「うん、ごめんね。美鈴にも迷惑かけちゃって」

「で、どうしたの?」

「…………分かってたんだけど、尚と私が別の世界にいることくらい。でも、他の人に言われて、再確認したっていうか……」

「え、なに? 誰がそんなこと?」

「いいの……。だって、事実だもん」

「桜だって本当はプロになれるくらい実力あるじゃない、でも、桜の夢はそこじゃない。でも、だからって高倉くんと桜が別の世界にいるなんて、おかしいよ」

「……尚の近くに新しい恋、あるみたいだから」

「桜……」

「ちょっと動揺しただけ。もう、大丈夫。心配かけて本当にごめん」

「明日、会いに行くから。家から出ないで待っててよ。朝ごはん食べたらすぐ行くから」

「うん、分かった、ありがとう」


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