音楽のほとりで

「桜っ、何してるんだよ、メールで一言だけって…………あ、ごめん」

尚の大きく張り上げた声が部屋に響く。

あまりにも突然のことに、桜も美鈴も何も言えずにただ尚の顔を見ていた。

「とりあえず、チョコ、食べる?」

美鈴は、チョコの箱を尚の方に向けて、彼を座らせた。

「あ、うん……」

尚は適当に1つを掴むと、それを口の中に放り込む。

桜は、尚の方に身体を向けてその頭を下げた。

「ごめんね尚。心配かけて」

「うん……桜の顔見たらなんか力抜けた。それより、このチョコ美味しいね」

「桜に買ってきたのだからね」

「はいはい」

すると、次は扉をノックする音が聞こえてくる。

桜は立ち上がり、誰かなと思いそっと開けると目の前には奏音の姿があった。

「えっと、今大丈夫ですか?」

奏音は中の様子を確認すると、遠慮がちにそう聞いてくる。

「はい、大丈夫ですよ」

と、桜の声ではなく、中から美鈴の声が聞こえてきた。

4人は、1つの小さなテーブルを囲んで座る。

そのせいで、1人1人の距離が近い。

外からは、鳥の鳴く声が聞こえてくる。

ちゅんちゅんと、高い音のそれは私たちの静寂な空間に音を与えてくれる。

「えっと、知らない人同士で挨拶でもしましょうか」

奏音が口を開くと、それぞれの名前や桜との関係性を言い合った。
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