音楽のほとりで

一通りそれを終えると、美鈴は奏音の経歴に感服しているようだった。

「へえ、長谷部さんって、すごく優秀なんですね。あの音大の講師だなんて」

「いえいえ、好きなことを研究してたら、偶々講師の枠があると聞いて」

「それでも、すごいですね。それに、桜との出会いも運命的だし、なんか映画みたいですよね」

「それは、僕も思います」

桜が紅茶を淹れに行っている間に、3人は和気藹々と話を進めている。

今日の空は雲ひとつない青色で、木々の葉もいつもよりも生き生きとして見える。

「幼馴染っていうのも、ドラマみたいだけどね」

対抗するように尚はぼそっと言った。

「まあね」

美鈴は思う。

桜の思っている尚の新しい恋なんて本当は無くて、どんなに離れていようとも尚の愛しい人は1人だけなのだと。

どちらの思いも分かるからこそ、どうしようもない気持ちになる。

そして、奏音もまた美鈴の見る限り人の良い人であることもまた、美鈴を悩ませる種となる。

桜の奥底にある思いが分からない。

美鈴には、そこまで分からない。

色々な人の思いが混ざりすぎて、1人では考えきれない。





「お待たせ」

ようやく、主人公である桜が戻ってきた。
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