音楽のほとりで
「長谷部さん、いい人そうだね」
2人が帰ったあと、開口一番桜にそう言う。
桜も見ていて分かっていた。
美鈴が奏音に対してプラスに感じていたことを。
「将来も安泰っぽいし」
「うん、そうだよね」
「でも」
桜が心の中で思っていて、だけど言葉にしない方が良いと思ってしまったその言葉を、まるで桜の心の中を全て読んでいる方でもいうように、言う。
「尚は、怒ってくれたの。連絡も取らずに居なくなってしまったことを」
「うん」
「それが…………」
「嬉しかった?」
「…………うん」
「じゃあ」
「でも、フランスには行けない」
「うん、分かるよ」
「今のままじゃ何もかも中途半端だし」
「まあ、そうかもね」
「全てをちゃんと形にした時に、残ったものを大事にしたいの」
「うん」
「ごめん」
「なんで謝るの」
「だって、こんな優柔不断で」
「当たり前だよ。誰だってすぐには決められない」
話を聞いてくれる人が美鈴で、本当に良かったと心の底から桜は思う。
蜂蜜のやつに甘いだけじゃなく、だからといってスパイスみたいに辛いだけでもなく、それがちょうどよくブレンドされているのが美鈴。
「ありがとう」
「いえいえ」