音楽のほとりで
詮索しないとは決めたものの、南よりもあの男の方が気になる尚は、スマホをポケットから出したり閉まったり、南に電話をかけようかどうか迷っている。
しかし、人にも言いたくないこともあるだろうと思うとなかなか一歩が踏み出せない。
誰にだって知られたくないことはある。
でも、何故かあの男性は尚の関心を引き付けて離さない。
「誰なんだろう……」
道端で立ち止まって考えていても通行人の迷惑になると思った尚は、とりあえず近くのカフェに入ることにした。
そして、適当にスムージーを注文する。
と、そこに偶然南がやって来た。
「あれ、尚さん」
「あ、ああ。南さん。偶然だね」
まさか本人が目の前に来ると思っていなかった尚は、分かりやすいくらいに動揺して、どもってしまった。
「どうしたんですか? なんか、焦ってます?」
「いや、こんな偶然会ったの初めてだったから驚いただけだよ」
「たしかに、近くに住んでいるのに会ったことありませんでしたね。案外会わないものですね」
「うん」
尚は南の周囲を彼女に怪しまれない程度に目を動かして見るが、先ほどの男はいなかった。
「尚さんは何を注文したんですか?」
「グリーンスムージーだよ」
「じゃあ、私もそれにしようかな。ここで、飲んでいきますか?」
「うん」
「ご一緒してもいいですか?」
「もちろん」
先に飲み物を受け取った尚は、適当に席を見つけると、手前の椅子に座った。