音楽のほとりで

「尚さんここはよく来るんですか?」

「いや、初めて来たよ。南さんは?」

「私はここ結構利用します、よくこのスムージーを買いに来ます、美味しいんです、ここの」

一口飲んで「んん、やっぱり今日も美味しい」と甘い声を出した。

尚は、先ほどのこともあり、南の顔を凝視してしまう。

だけれど、そこには先ほどの冷たさを探すことはできず、いつも会う南だ。

「どうしたんですか?」

尚の視線に気付いた南は、微笑みながらそう聞く。

「いや……」

「なんか尚さん変ですよ? …………何か見たんですか?」

南の顔からは笑みが消え、それどころか先ほどの冷たさとは比較にならないほど冷酷な顔をしており、その表情を見ただけで芯から凍ってしまいそうになる。

まるで、仮面でも被ったかのような変わりようだ。

しかしそれは一瞬で消え、そのことに尚は訳が分からずに目をこすってもう一度南の顔を確かめた。

「どうしたんですか?」

やはり、そこにはいつもの愛想の良い南がいる。

「はは、疲れてるのかな。最近忙しいし」

「尚さんはコンサート以外の日は何やってるんですか?」

「音大でピアノを教えてるよ」

「そうなんですね。私もそろそろパリ慣れてきたので、マネージャーに仕事を探してもらってるんです」

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