音楽のほとりで
人もどんどんと増えていき、周りからはほのかに甘い香りが漂ってくる。
それが、南の欲望を掻き立たせたのだろう、「ちょっと、ドーナツ買ってきますね」と言って、彼女は席を立った。
1人になると尚は、南の飲みかけのスムージーを見つめる。
よく見ると、完全に混ざりきれていない果物の欠片が見える。
自身の手に持っているスムージーを飲むと、何かの欠片が口の中に入ってきた。
それをかじると、しゃりしゃりと食感がして甘酸っぱい果実の香りが口の中に漂う。
「お待たせしました」
南は、チョコでコーティングされたお皿に乗っているドーナツと共に戻ってくる。
固まっているチョコの上には、銀色のつぶつぶとした甘い丸々としたものが乗っていて、見ているだけでその甘さが感じられる。
「尚さん食べますか?」
「いや、いいよ」
ドーナツよりも、先ほどの人の情報が欲しいと、尚は心の中で呟いた。
しかし、そんな尚の心の声を南が知るはずもなく、目の前のドーナツを手に取り一口食べた。
すると、割れてドーナツから離されたチョコがパラパラとお皿に落ちていく。
南はそれを気にすることなく、食べ進める。