音楽のほとりで
「おかえり、結構長居してきたね」
「途中でお腹が空いてドーナツ食べちゃったの。ルイも食べたかった?」
「いや、あそこのドーナツは甘すぎる」
南と話しているのは、あの成宮ルイだった。
ルイは、深い青色をしたソファに座っていて、ペットボトルの水を飲みながら流れるテレビの映像を見ている。
長い脚は組まれており、そこに肘を立てて手には小さい顔を乗せていた。
「夜は何が食べたい?」
南がそう聞くと
「僕はなんでも良いよ」
と、いつも通りに答える。
「そう、分かった」
南は、冷蔵庫の中を確認すると、適当に食材を取り出して一定のリズムでとんとんとんと切り始める。
「ねえ、本当にパリでいいの?」
「いいんだ、僕だってこのままじゃダメなことくらい分かってる。克服しないといけないんだ」
「だからって」
「南、いつまでも君の荷物でいることは嫌なんだよ。だから…………」
「うん、分かった、分かったから」
南は、持っていた包丁を置いてルイのそばに来るとそっと彼を包み込んだ。
大きな身体からはその威厳が感じられず、むしろ弱々しさが勝っている。
小刻みに震えるその身体は雨に濡れて震える子犬のようで、しばらくすると落ち着きを取り戻した。
「今日は、温かいスープでも飲みましょ」
「うん、そうだね」
そう言うと南は再びキッチンへと戻り、先ほどの続きを始めた。
野菜を切る間に、鍋に水を注いで火にかける。
グツグツと水が煮立つ音が聞こえると、南はまな板に綺麗に並べられてある数種類の野菜をその中に入れた。