音楽のほとりで

6月になり、東京の風景は爽やかな緑色々が増している。

ここ最近は天候も穏やかで、つい外で過ごしたくなってしまう陽気だ。

「桜さん、実は……」

休日に、あんみつを味わいに来ていた奏音と桜は、向かい合って座っていた。

そうして、奏音は何か言いたいことがあるものの、それを言えずに「実は……」という言葉を繰り返している。

桜は、そんな彼の姿を見ると、いつものあの堂々とした姿からは想像できないその姿に笑ってしまいそうになる。

しかし、それは失礼だと思い、桜はなんとか我慢している。

「実は……これ、美味しいですね」

そんなヘンテコな文章を言い、奏音はあんみつの中にあるみかんを掬ってそれを食べた。

桜も同じように、自分のあんみつの中に入っているそれを食べる。

「それで……実は……」

10回目の「実は」に、流石の桜も耐え切れずについに口元を緩ませてしまった。

「どうしたんですか?」

「あ、その……」

「実は?」

と桜は少し意地悪に彼に言う。

「その、両親が桜さんに会いたいと言っていて」

奏音は吹っ切れたようにその言葉を言う。

「あ、そうなんですね」

桜は、思ってもいなかった言葉に、一瞬思考が停止してしまうも、すぐにその言葉の意味を捉える。

「僕たち、年も年じゃないですか。僕の両親気が早くて、結婚相手と言うんですよ、桜さんのこと」

と、困った表情をして、あんみつの横においてあるお冷を一気に飲み干した。

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