あまい・甘い・あま~い彼に捕らわれて
「えっ…」

一緒に住んで一緒に働く…?
颯馬の言葉がうまく理解できない。

もちろん家には家族もいるし、お店だって葵さんや他に従業員がいるから二人な訳じゃない。

顔が曇る私を見て、彼女は一瞬くすりと勝ち誇ったような笑顔を浮かべた。

「これからしばらく忙しくて、私が颯馬を独り占めすることになっちゃいます。
ごめんなさい、杏さん。」

「あっいえ…」

「それから杏さん、颯馬は今寝る時間を削るくらい本当に多忙なので、颯馬に連絡するのもほどほどにしてくださいね。

今も…忙しいのわかってますよね?

優しいからにこにこしてここにいるけど、今こうして時間とってる分帰りが遅くなるんです!

少しは彼のこと考えて行動してくれませんか?

それでは失礼します。」

彼女のキツい言葉にハッとする。

「私…何やってんだろ…ごめんね颯馬。私帰るよ」

「 杏…ごめん。
アイツが言ったことは気にしなくていい。

でも…仕事帰りに店に顔出すのはしばらく遠慮してくれないか?

少しだけ我慢してもらえる?

でも…二十五日の夜は空けておいて」


ぎゅっと握られた手に力が込められたが、それに答えるように握り返すことができなかった。

「帰るね。ご馳走さま」

厨房から睨むように私を鋭く見つめる視線と目があった。

彼女は颯馬が好きなんだ…。

直感的にそう思った。

( こなきゃよかった…)

頭痛と耳鳴りがして気持ちが悪い。

私は逃げるようにお店から飛び出した。
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