あまい・甘い・あま~い彼に捕らわれて
***

まるで別人のように大人っぽいメイクをほどこされ、髪は綺麗にあっぷされた。

身体のラインがわかるピッタリとした黒いロングドレスは、思っていたよりも背中が大きくひらき、素肌を露出させている。

ノースリーブで肩もでていて私はため息をついて、満足げにながめる目の前の男におずおずと口を開いた。

「あっあの…きっ…きっ…恭一さん…」

名前を呼ぶ声が思わずうわずり、恭一さんがくすりと笑う。

「なに?杏」

「あっあの…えっと…
せっかく用意してくださったのに申し訳ありませんが、ストールか背中や肩の露出が少ないものにしてもらえませんか?

私、子供の頃に火傷をおって皮膚移植していて…できれば人目に触れるのはちょっと…」

背中に回った恭一さんが肩口のあとにふれびくんとはねあがる。
        
「気にするほどのあとではないと思うんだか気になるならしかたないか。
色白で綺麗な肌だから見せたかったんだか、楽しむのは俺だけで充分だな。」

恭一の言葉に口をパクパクさせて真っ赤になる。
すっかり恭一のペースで振り回されっぴなしだ。
恭一は近くの店員を呼ぶと

「すまないが袖があるふわりとした感じのドレスにかえてもらえないか。

これも似合うが彼女には大人びたデザインよりその方が似合うだろ。
俺にあわせる必要はない。
杏の雰囲気に合わせたドレスにかえてくれ」

さらに赤くなる私と、愛しい目で私を見つめる彼は、どこから見ても、愛し合っている恋人同士にしか見えやしないだろう。

これから向かうパーティーにむけて、私たちは愛し合う恋人を演じている。

甘く囁き愛しい目で見つめる恭一に、私は…
甘くうずきはずめた胸の痛みにとまどっていた。
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