シュガーレスでお願いします!
「大学時代に司法試験を突破した秀才にして、弁護士にしておくにはもったいない美貌の持ち主の比呂先生が、テレビにも出演するスターパティシエとどうやって恋に落ちたのか……。気になるわよねえ?」
「香子先生」
美貌とは恐れ多い。
褒められているのは分かるが、少し言い過ぎではないだろうか。
人より少しばかり、顔のパーツがくっきりしているだけで、美貌というほどのものではない。
化粧はいつも最低限で、学生時代から変わらぬワンレングスの黒髪ロングヘアーは手抜きの象徴でもある。
「ねえねえ。新婚生活はどうなの?あなたたち籍を入れてまだ3か月でしょう?上手くやってるの?毎週、水曜日に待ち伏せしてきたカ・レと?」
「香子先生!!」
「あら?怒っちゃった?」
語気を強め悪ふざけが過ぎると目で訴えると、香子先生はようやく野次馬心を引っ込めてくれたのだった。
「君島さん。それ、食べ終わってからでいいけれど、一昨日頼んでいた判例の資料、持ってきてくれる?」
そう指示すると、君島さんはその場でカチンコチンに固まってしまった。
「は、はい……」
新人の彼女を怯えさせるつもりはないのだけれど、存外に言い方がきつくなってしまったかもしれない。
その日、奥寺法律事務所にはモンブランの甘い匂いがそこかしこに漂っていたのだった。