シュガーレスでお願いします!
深酒のせいでまだ本調子じゃないんだと自分で自分に言い訳をしながら、ドアノブに手を掛けた時、慶太が背後から腕を伸ばしてドアに手をついた。
「ダメだよ、比呂。そんなに物欲しそうな顔したって」
キスを期待したことを見咎められたような気がして、ギクンと肩が揺れる。
「“節度を持て”って言ったのは比呂の方だろ?」
今にもベッドに連れていかれそうな吐息多めの痺れるような甘い声色で囁かれ、ぞわわっと鳥肌が立った。
慶太は私が何を期待していたのか、手に取るようにわかっていたのだ。
……そして、あえて無視した。
「い、いってきます……っ!!」
とてもじゃないが、慶太の顔を見れそうにない。
私はそのままドアノブを押すと、エレベーターホールまで走り、呼び出しボタンを連打した。
(う、うう、嘘だろ!?)
淡白な方が良いと主張したのは私なのに、まさかこちらが我慢を強いられることになるなんて!!