シュガーレスでお願いします!
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(あ、今日もいる……)
刑事ドラマよろしくブラインドを指で押さえて事務所の外の様子を窺ってみると、歩道柵に腰かける彼の姿があった。
毎週、店の定休日である水曜日になると、事務所の入り口で私が出てくるのを待っているのだ。
普段は事務所を出たら弁護士バッチはバッグの中にしまうのに、あの日は急いでいたこともあって、襟につけっぱなしにしていたことが仇となったらしい。
彼は私と思しき人物がいないか、近隣の法律事務所を片っ端から尋ね歩き、4件目にしてこの奥寺法律事務所に辿りついたのだ。
衝撃のプロポーズから這う這うの体で逃げ出したというのに、これでは無意味である。
あのパティシエ――確か有馬慶太と言ったか。
人となりも知らず出会ったその日に交際どころか結婚を申し込んでくるなんて、ひとを馬鹿にしているにもほどがある。
律儀に私の仕事が終わるのを待っている彼を見ていると、苦々しい思いで胸が一杯になる。
歩道を歩く人がチラチラと振り返る程度には、有馬慶太という人は顔が知られている。
そんな有名人がなぜ、私なんぞにプロポーズするかなあ……。