シュガーレスでお願いします!
「キッチンにいる時はふざけないでって言ったよね?」
「だって、比呂のエプロン姿が可愛いからさ〜」
「それは理由になってない」
30過ぎた男のくせにやたらとハートマークを飛ばすんじゃない!!
私のことを可愛いと囃し立てるのは慶太ぐらいのものだ。
それとも、可愛いと言わないと気が済まない病気なのか?
エプロンひとつで抱き着かれるなんて、真っ当な理由ではない。
これが裁判なら慶太なんてすぐに有罪にされてしまうだろう。
「フランスに行くのにずっとご無沙汰だったからさ。一刻も早く比呂に触れたくて……」
「ひあっ!!」
ちゅうっと水音がして、首の後ろに唇が這わされ、ゾゾゾと背中に鳥肌が立つ。
「こら、やめろ!!」
「んー。良い反応」
よくもまあ次から次へと、飽きないものだと感心してしまう。
確かにフランスに行くまでコンクールに向けて特訓やら手続きやらで、慶太にしては随分とご無沙汰だったのは事実である。
「比呂だって、久し振りに俺が帰ってきて嬉しいんじゃない?」
何もかもを見透かされているようで悔しい。
嬉しくないと言ったら嘘になるので、ひたすら無言になる。
聞き分けのない子供のような慶太に、付き合わされるのはいつだって私の役目なのだ。
私は仕方なくまな板の上に包丁を置き、そのままクルリと反転すると、シンクに後ろ手をついて慶太に向き直った。