シュガーレスでお願いします!
「今まで……お世話になりました……」
「ちょっと待った!!」
このまま止めないと彼女が本当にsoleilを辞めてしまいそうな雰囲気を感じとって、話に割って入る。
「あなたがsoleilを辞める必要はない。そもそも私は辞めて欲しいなんて思ってもいないし、簡単に辞めるなんて口に出して欲しくもない。もっとここで働いているということに誇りを持って」
清水さんをみすみすクビにするなんて、慶太も大輔さんも経営者失格なんじゃない?
私はどう足掻いてもパティシエにはなれない。生来の不器用とこの体質のせいで、パティシエには絶望的に向いていない。
でも、清水さんには大きな可能性がある。
清水さんに接客されたのは2回しかないけど、彼女がケーキを見る目は愛おしい我が子を眺めるそれによく似ていた。
ケーキなんて、繊細で、面倒で、作るのに手間暇かかる食べ物を愛してやまない、彼女ならきっと慶太を超えるような素晴らしいパティシエになれると思う。
そう伝えようとして、自身の異変に気が付いて口元を押さえる。
なんか……すごく気持ち悪い……。
吐き気というよりも強い寒気を感じて、唇がわなわなと震えた。
「比呂!!」
私は椅子から転げ落ちると、その場にうずくまって立てなくなってしまったのだった。